富士山での山小屋住み込みバイトを振り返ってみようと思う。

 

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私は大学2、3年生の夏休みの間、一ヶ月間、富士山の山小屋で住み込みアルバイトをしていました。普通では経験できない、ある意味、常識が通用しない世界での生活はなかなか刺激的なものでした。今年ももうすぐ山開き。そこで私が経験した富士山バイトの全てを振り返ってみようと思います。自分で撮った写真も散りばめていきます。

始めに言っておくと、小屋の仕事や生活環境は、その小屋の規模や経営者(私は社長と呼んでました。)で結構変わると思います。あくまで私が働いていた小屋についてです。そして現状は変わっているかもしれないので悪しからず。

 

富士山バイトをやる事になった経緯

まずは富士山バイトをやる事になった経緯から説明していきます。

普通の人からすると、「そんなバイトあるの?」って感じのレアなバイトだと思います。富士山バイトはいわゆるリゾートバイトと呼ばれる括りになります。冬のシーズンになると雪山でスキー・スノボ客向けの民宿で働くのと同じですね。

初めて私が富士山バイトの存在を知ったのは、大学2年生の夏休み前です。大学のバイト求人が貼っている掲示板を眺めていると、富士山のとある山小屋が募集をしていました。そして、学内でそのバイトの説明会が開かれると記載されていました。

最初はそんなバイトがあるのか〜程度だったので、その説明会にも参加せず。しかし夏休みが近づくに連れて、特にやる事もないのでやってみようかと思い始めます。(ちゃんとしたサークルに入っておらず、大学の友達と遊ぶ予定もなかったので・・・。)

そもそも何故、大学にそんな募集があったかと言うと、私の大学は夏休みが7、8月だったからです。富士山の山開きが7月なので、それに合わせて毎年募集を掛けている様です。普通の大学の夏休みは8、9月ですよね。私は一人暮らしをしていたのですが、地元に帰っても7月は地元友達と遊ぶ事もできないし、それだったら7月はまるまる稼ぐか、と考えた訳です。

そして大学の求人に募集をしようとしたところ、既に今年の募集は締め切ってしまったとのこと。でも私の心は既に富士山バイトに決まっていたので、ネットで探してみる事にしました。

すると、富士山の吉田口ルートで一括でアルバイトを募集している事が分かりました。今の募集サイトは以下です。当時はネットで応募する事もできず、サイトもこんな綺麗なものではなかったです。

富士山 山小屋 アルバイト 求人情報

ハガキに必要事項を記入して出すと、暫くして返信がきました。私が割り当てられたのは7合目の山小屋でした。このサイトから応募した場合、採用された時は吉田口ルートにあるどこかの山小屋に適当に振り分けられます。

無事に採用が決まり、7月4日から働く事になりました。

自分が働く小屋までは当然、自分の力で富士山を登る事になります。7合目までとはいえ少しビビってました。富士登山は未経験ですし、バイトが終わった後は折角なので山頂まで登ってみたいと考えていたので、ウェア等の準備もしないと。いま考えれば、バイトに向かうだけなら大した準備は必要なかったので、若干無駄な出費でした。

富士山の5合目までは新宿のバスターミナルからバスで行って、そこから小屋まで登山します。初めての登山はこんな感じで霧がかかっていたので心細かった笑 途中から外国人登山客と登ったのを覚えています。

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ここから私の富士山バイトのスタートしました。

 

仕事内容

富士山の山小屋は24時間営業です。なので私の小屋では基本的に男子が夜勤、女子が日勤でした。

具体的にどんな仕事があるかというと、こんな感じ。基本はホテルマンと同じです。

・ツアー客の迎え

私の小屋に泊まるツアー客を5合目に迎えに行き、そこから私の小屋まで引率します。5合目で点呼を取るときにどんな人がいるかを確認し、子供連れやお年寄りに先頭に来てもらい、体力がありそうな人に最後尾に付いてもらう等の工夫をします。自分のペースだとついつい早くなり過ぎてしまうので、通常の半分以下のペースを意識して登っていました。小屋に着いた後は注意事項やトイレの説明なども自分で行ないます。

・宿泊客の寝かし、起こし

宿泊客を寝床に案内するのですが、その時ちょっと工夫が必要。小屋の寝床はぎゅうぎゅう詰めです。寝返りを打てるスペースはありません。そんな場所で知らない登山客同士が寝る訳なので、ご夫婦やカップルに協力して頂いて、知らない男女が隣にならないように「男女女男」みたいに並んでもらいます。

そして、頂上での御来光に合わせて出発する人は、夕方に着いて仮眠を取り、23時頃に出発します。 その時間にお客さんを起こして、小さな声で「いってらっしゃい。」ツアー客同士が被って混雑しないように配慮もしなければなりません。

・寝床の掃除

山小屋は宿泊場所です。私が働いていた小屋は最大で150人収容可能で、お客さんが出てった後にその寝床の掃除を行ないます。これがなかなかの重労働で、マットレスを全てはがして掃き掃除を行ないます。山小屋では登っている格好のまま仮眠を取るので、寝床は砂だらけになります。ピーク時は数時間の間に150人が何回転もするのでスピードも重要。また、晴れている日には小屋の屋根に登ってマットレスを天日干しするので、これも大変な仕事でした。

・料理の支度

料理を作るのは基本的に女子の仕事ですが、配膳は男子もやってました。出されるメニューは定番のカレーから、牛丼、朝ご飯はご飯にみそ汁に鮭といったTHE定食も出してました。

・売店での接客業

登山客(小屋には泊まらない)向けに飲み物やお菓子、懐中電灯から酸素まで、登山に必要なものを販売していました。500mlのペットボトルで確か400円?だった気がします。標高が高くなればなるほどこれらの値段は高くなります。小屋までは専用のブルドーザーで運び、ゴミもそれを使って下ろしますからね。お金がかかるんです。

・焼印を押す

各小屋では金剛杖にジュっと焼印を押す事ができます。私の小屋には囲炉裏があり、そこでコテを熱して金剛杖に焼いていました。これはセンスと練習が結構必要です。熱し過ぎていると金剛杖が焼け過ぎて文字が潰れてしまうし、焼きが弱いとかすれて読めません。お客さんの金剛杖はもちろん一本なので、毎回一発本番。最初は緊張しました。ツアー客が連続で押し寄せて来るともう死にます。コテが冷めてしまうので二刀流にして対応したりします。そしてどうしても間に合わないって時は社長の登場です。何十年間(っていうか物心ついたときくらいから)もやってるのでそりゃもう凄い。こんな感じで押してました。(写真の人はバイト仲間)

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・登山道掃除

週に一度、吉田口ルートにある小屋で当番制で8合目まで登山道の掃除を行なっていました。トングとビニール袋を持って八合目まで掃除をしながら登って行きます。富士山のゴミ問題はよく騒がれていますが、当番で毎日掃除しているにも関わらすゴミはまあ落ちています。特に岩の隙間とかに隠すの本当にやめてほしい。掃除していると登山客から「ありがとうね〜」なんて声を掛けられるので、清々しく、気持ちよく掃除できます。ちなみに一番困ったゴミはう◯ち。

それぞれ細かい事は沢山ありますが、ざっと書くとこんな感じです。

 

生活環境

基本的な1日の生活の流れ。

 16:00 起床
 17:00 ツアー客の迎え
 18:00 朝ご飯
 23:00 頂上で御来光を拝む人を送り出す&掃除
 24:00 昼ご飯
 04:30 小屋で御来光を拝む人を起こす
 07:00 頂上へ出発する人を送り出す&掃除
 08:00 歯磨きして就寝

ピーク時はほとんど寝ないで働くときもありましたが、大体こんな感じ。上記の空き時間の間に焼印をしたり売店の接客をしたり、夜食を食べたいという人がいたら作ったり、飛び込みで泊まりたい登山客の対応をしたり・・まあ仕事は多岐に渡ります。高山病で体調が悪い人の看病をする事もありました。

暇な時はバイト仲間や登山客と話したりしてます。あとタバコ。

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他に良く聞かれる生活環境についてまとめます。

・食事は?

小屋の従業員の食事はお客さんに出しているものとはもちろん違います。ブルドーザーや小屋の息子さん(次期社長)が週に1度運んできたものなどを食べます。納豆は毎日の様に食べてましたね。後は土地柄なのか、馬刺や牛刺なんかが出たのが記憶に強く残ってます笑 野菜もしっかり取っていたので、正直一人暮らししている普段の生活より良い食事を取ってましたね。

・お風呂は?

富士山は水が大変貴重です。お風呂は雨水を貯めておき、大体10日に1回くらいしか入れません。気温が大体10℃くらいなので汗はあまりかかないんですが、それでも髪の毛はガチガチ。10日振りのお風呂は死ぬ程幸せな気分になれます。

・休みは?

休みはありませんでした。迎えで5合目まで下りる事はあるけど、1合目まで下りる事はありません。なので30連勤といえば30連勤ですが、生活そのものが仕事なので通常の仕事と同じ様に考えるのは無理ですね。

 

気になるお給料

山小屋の給料は日当制です。日当9000円で、30日間働いていたら27万円。小屋での働きぶりなんかで社長が寸志として少し上乗せしてくれる事があります。私は寸志で3万円頂き、ちょうど30万円お給料を頂きました。最終日に現金手渡しで受け取ります。封筒から出してその場で金額を確認した時は、さすがに興奮しました。笑 

下山してすぐにATMへ預けます。大体下山するとそのまますぐに銭湯へ向かうのですが、富士山バイトがいると知っている悪い輩が、その給料を盗むという事が過去に何度もあるようです。なのですぐに預けろと言われました。

稼いだ30万円は残りの夏休みに旅行に行って使い果たすんですけどね。

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やって良かったと思う理由・想い出

富士山バイトでは本当に貴重な経験をする事ができ、本当にやって良かったです。

その理由を想い出と合わせて書いていこうと思います。

第六感的なものを鍛えられました。富士山は言わずと知れたパワースポット。ピンとくる、察するという力が付いた様な気がする。(観察眼が鋭くなっただけかも笑)

普段会えない人と会えました。富士山で働く人は一癖も二癖もある人が多いです。私が一緒に働いた人は、元吉本の芸人、地元のごりごりのヤンキー高校生、マラソンランナーなどなど。あとお客さんもちびっこから90オーバーのお年寄りまで、本当に幅が広く出逢えました。

働く事の厳しさを目の当たりしました。小屋の社長は使えない人は容赦なくクビにしまう。「今日中に荷物まとめて下山しろ!」と言われるのです。その日までの給料はもちろん貰えますよ。要領が良くなかったり同じミスを何度もする人がそうなってしまいますが、正直社長や女将さんとの相性もあると思いました。

一夏で30カ国ほどの人達と話す事ができました。富士山に行けば分かりますが、登山客を見渡すと外国人が非常に多いです。なので働いていると色々な国の人と会話する事になります。小屋で働いている中で英語がそれなりにできるのは私だけだったので重宝されましたし、英語で話す事にためらいが少なくなりました。

資源の大切さを学びました。水を節約する為に茶碗の重ね方を注意されてから、家に帰った後もそれは実践しています。資源ゴミの扱いにも気をつけるようになりました。

花火を上から豆くらいの大きさで見ました。花火を上から見る経験てなかなか出来ませんよね。しかもめちゃめちゃ上から。花火とは思えない何とも神秘的なものを感じました。

御来光に飽きました笑 これはある意味羨ましい事ですかね。吉田口ルートからはどこにいても御来光を拝む事ができます。なので毎朝のように拝んでいるとさすがに飽きます。

色々な出来事があったけどこのくらいにしておきます。とりあえず楽しかったって事は間違いない。

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おわりに

富士山バイトが終わってからすぐにもう一度登りましたが、それ以来久しく登っていません。富士登山は一度で良いと言う人もいますが、私もそれに賛成です笑 ですが私は小屋の人には会いたいのでそろそろ登りに行こうと考えています。

親孝行も兼ねて両親を連れて登りに行きたいなー。

では。

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