【書評】AIの衝撃 人工知能は人類の敵か

話題のAIを知るには良い本

 話題のAIについて十分な情報を与えてくれる良書でした。AIの過去から現在まで研究がどう進んできたか、いまできること、未来はどうなるか。また、GoogleやFacebookといった企業の動き、目指すものが丁寧に説明されています。初めてAIに関する本を読みましたが、とても理解し易かったです。

目次

第1章 最新AIの驚異的実力と人類滅亡の危惧
――機械学習の光と陰
第2章 脳科学とコンピュータの融合から何が生まれるのか
――AIの技術と歴史
第3章 日本の全産業がグーグルに支配される日
――2045年「日本衰退」の危機
第4章 人間の存在価値が問われる時代
――将棋電王戦と「インダストリー4.0」

 

これからはディープラーニング(深層学習)が鍵

ディープラーニングという技術は、人間の頭脳を構成する神経回路網を人工的に再現した「ニューラルネット」の一種。この為、ディープラーニングは「ディープ・ニューラルネット(DNN)」とも呼ばれる事もある。そこには大脳視覚野の認識メカニズムに基づく、一連のアルゴリズムが実装されています。ディープラーニングはここ数年の間に、それまで停滞していた「画像認識」や「音声認識」などのパターン認識技術を飛躍的に進化させました。

たとえばGoogle

Googleは2012年に「Google Brain」と呼ばれる巨大システムを構築し、youtube上の大量の動画を教科書代わりにして、自力で猫や人の顔などの視覚的な概念を学習する事ができました。つまり、コンピュータが人間から何も教わる事なく、自力で何らかの概念を獲得したのです。

AIがビッグデータと相性が良いのもここにありますね。人間が目で見て何らかの規則性を見出だすには限界があります。それが人間が気付けなかった規則性をAIが勝手に見つけ出してくれます。 

ニューラルネットは分からないから未来がある

ディープラーニングの内部メカニズムについては、その専門家にもまだ不明な点が数多く残されています。実装されたアルゴリズムは脳科学の成果に基づいているので不明点はありませんが、複雑に入り乱れる人口の神経回路網のどこをどう情報が伝わって、ディープラーニングが学習成果を導き出すかのかは、未だ分かっていないようです。

その謎が力の源となり、予想もつかない成長を遂げる可能性がある訳です。限界が見えないから頑張れるという事ですね。

 

課題は多い

「人から機械への制御権の移譲」「AIロボットが行動する上での判断基準や倫理観をどう植え付けるか」「利便性とプライバシーのバランス」・・・。もはや考え出せば次々に課題は上がってくるのでは、という状態ですね。

 AIの暴走として記憶に新しいのはMicrosoftが開発したTayちゃんですかね。

japanese.engadget.com

 

人間はAIに支配されるようになるのか

未来について筆者の私見が述べられています。人間は「知能」をロボットやコンピュータに譲り渡す決断をするのか?

「未来の人間はあえてそうした決断を下す」 

が筆者の考えです。それは人類が今後、直面するであろう未曾有の困難と危機に対処する為です。地球温暖化や大気汚染、核廃棄物等々。そういった問題を解決する為に、人類の知能を超えたコンピュータやロボットが必要になるという事です。でもそれを人類の知能はたいした事ない、と自虐的になる必要はないと仰っています。それは「知能」が人間に残された最後の砦ではないからです。それを上回るものを「何物か」を私たち人間は持っているのです。

何物かとはなにか。それは、

「自分よりすぐれた存在を創造し、それを受け入れる私たちの先見性と懐の深さ」

人間は大丈夫。と安心させてくれる内容でこの本は締めくられています。今後確実に私達の生活を変える事になるAIについて分かるので、どんな人でも一読頂きたい一冊でした。

最後に書かれているお気に入りの内容を引用させて頂きます。

あるとき、農作業の合間に将棋をしている人たちのところにAIロボットが訪れて、こう尋ねます。

「あなたたちはなぜ、そんな時代遅れの、つまらないゲームをして遊んでいるのですか?」

私たちの遠い子孫は、このロボットに向かって次のように答えるでしょう。

「そうかもしれないですね。でも君たちは、そんな頭の悪い我々が生み出したものなんだよ」